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ライターの鈴木忠平=2022年11月8日、東京都世田谷区、田島知樹撮影
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 早朝のコンビニのなかで血の気が引いた。

 「和田監督退任」「今季限り」「金本氏後任候補に」

 それは、あるスポーツ紙の1面の言葉だった。普段は見出しをちらっと確認するだけだったが、すぐに買ってその場で読んだ。阪神タイガースの監督交代が固まったと報じている。他の新聞も同じだった。もちろん、自分が記者として勤める新聞には載っていない。

 「特オチか……」

 何も考えることができず、ぼうぜんと立ち尽くした。

 2015年9月末のことだ。日刊スポーツの阪神担当キャップだった鈴木忠平(45)はその後、スーツ姿で球団幹部の家に車で向かった。監督交代のニュースが事実かを確認するためだ。外はまだ薄暗い。ハンドルを握りながら、ふと思った。

 「このまま新聞記者を続けてはいけない」

 心の中で劣等感があふれていた。数日前のことを思い出していた。

 球団社長の動きが怪しい。同じ阪神担当の後輩が監督交代の可能性を覚知した。さっそく社長に話を聞きに行くと、観念して認めた。一方で、「まだシーズン中でチームもあきらめずに戦っているところなんやから」とも言った。阪神の優勝の可能性がなくなるまではニュースにしないでおこうと決めた。

 だから、なおさら「新聞記者に向いていない」と思った。本来は、社長に会いに行った時にスクープとして書くべきだった。社長の言葉を聞き、いわばチームへの礼節としてニュースを寝かせた自分の判断ミスで、後輩にも迷惑をかけてしまった。

 同時に気づいていた。新聞記者として監督人事への興味がなくなっていたことを。そもそもニュースを追いかけることに嫌気がさしていたことを。

 新聞記者はあこがれだった。天職だとも思っていた。だが、もう限界だった。追い込まれていた。自分が本当に書きたいことすら、見失いそうだった。

     ◇

 16年間の記者生活で似たようなことは、過去にもあった。

 忘れもしない、07年の日本シリーズだった。

 日本ハムとの第5戦目。中日は日本一に王手をかけていた。この大事な試合で先発の山井大介は快投を続け、8回が終わるまで1人のランナーも許していなかった。完全試合という大記録を前に球場は、異様な雰囲気となった。

 だが監督の落合博満は1点リードで迎えた9回、絶対的な守護神の岩瀬仁紀をマウンドに送った。岩瀬は落合の期待通り、最後のイニングにゼロを刻んだ。中日は、53年ぶりの日本一を手にした。

 ありえないと思った。なぜこんな「非情」な継投をするのか。なぜここまで勝利にこだわるのか。鈴木は試合後、原稿の締め切りが迫る中、薄暗い球場の駐車場で落合を待った。そして過去のある失敗を聞くことができた。

数々の賞を総なめにした『嫌われた監督』で、鈴木は落合博満を描いた。完全試合目前で継投策をとった落合の「非情さ」の裏側に人間らしい葛藤があった。清原和博と向き合った『虚空の人』では、取材をやめたこともある。「清原を食い物にしとるんじゃないか」とまで言われたライターがたどり着いた境地とは。

 04年の日本シリーズだった…

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